http://watchan.net/sagae/ スクールカウンセラーによる「こころの取扱い説明書」 佐賀枝 夏文
watchan.net > 佐賀枝夏文さんの「こころの取扱い説明書」 > こころのサプリメント編 2
 
 こころの取扱い説明書は、問題を抱えたときの「こころの取扱い」について述べたものです。問題にたいしてカウンセラーとしての立場とクライエントさんへの助言を提示してみましたので、両面から読んでいただければよいと思います。
 
○こころを使い過ぎたとき
 
 心配ごとがあると、そのことが脳裏に張り付いたようになりませんか。心配ごとがこころに強力な接着剤で張り付くのは、こころが迷路に入り込みぐるぐるまわり出すからです。迷路に入り込み抜け出せないのは、やっかいな不安が同時にでてくるからでしょう。

 不安は心配ごとを、実物以上にしてしまうことがあります。心配ごとは心配なことではありますが、それ自体しかたのない出来事です。そのために不安がでてくると、やっかいなことになることが多いです。不安はひとの存在自体を、ぐらぐらと動かしたりもすることがあります。

 不安がひとの存在をぐらぐら動かし出すと、不安を止めようとして、こころを使い続けることになります。休息のない状態が続くと、からだに反応がでて睡眠障害や食欲不振、意欲低下になることがあります。この状態を表現すると、「疲れている」状態でしょう。

 逆に、疲れているのはエンドレスで物ごとを考えているからかもしれません。

●カウンセラーのあなたは……。
 心配ごとから不安を募らせ、疲れ果て、睡眠障害に陥り、食欲不振、そして意欲低下の方がカウンセラーのあなたを尋ねてこられたとします。「そんなに不安に思わなくても、大丈夫よ」と言いたくなります。でもこの言葉は今、相手には届かないと思います。

 あなたを尋ねた方は、不安を処理したいと考えている場合が多いと思います。その結果、不安を大きくしているようです。心配ごとがあれば、不安は当然でてきます。不安を大きくしない方法としては、不安が生まれて当然と考えるのはいかがでしょう。その方が考えていること、またはその状態をそのまま包んであげてください。

◆あなたがこの問題に直面しているのでしたら……。
 心配ごとがあると、そのことでいろいろの不安が湧いてくるものです。不安は意外とやっかいなもので、不安が不安を次々に増殖していくものです。考えるほどに不安が増殖し、成長します。このことを「こころのしくみ」として知ることはよいと思います。

 懸命に不安を処理しようと考えれば、つらくなりますよ。
 
○傷ついたとき
 
 傷つけた当事者からすれば、些細なことなので気づかないくらいのことかもしれません。また、傷つけられたひとは、それを気づかれないように振る舞ったのかもしれません。傷ついた当事者は、このようなとき、気持ちが萎縮して、その瞬間から外界を閉鎖したようになります。自分で閉鎖したというより、外界に関心が向かないし、向く余裕がない状態です。まわりで起きている出来事と心理的な距離がひらいた状態と表現したらよいでしょうか。まわりに関われないで殻に入ったようになります。そして、ぐるぐると傷ついた情景を繰り返して考え続けます。この傾向が強く出るひともいますが、上手に処理して何ごともなかったように振る舞えるひともいます。多くの場合は、考えてつらくなるひとが多いように思います。

●カウンセラーのあなたは……。
 このような事情を抱えたひとに出会うというよりも、このようなことが重なり、神経質な傾向が増幅した状態のひとに出会うことが多いと思います。あなたはこのようなとき、そんなに深刻に考えなくてもよいのではないかとアドバイスしたくなると思います。そのアドバイスは正しいと思いますが、あなたを尋ねた方はそのことは十分に理解できているかもしれません。とにかく、そのひとは傷つけたひとを恨みに思い、おさまらない「しこり」を持て余していることを理解しましょう。

 時間はかかると思いますが、つらい状態にあることを包んであげてはいかがでしょうか。傷ついて悲しい、理不尽ということですから、むしろそのことを認識してはどうでしょう。  もつれた感情の糸を聴いてあげてください。過去の体験や関係のなさそうな話が語られるかも知れませんが、それも丁寧に聴いてあげてください。くれぐれも答えだけを探さないでください。

◆もし、あなたが自身でしたら……。
 葛藤という形で抱えているようでしたら、しばらく、こころにおさまるまで時間がかかると考えてください。いつまでも、そのままではないでしょう。かならず、時間が過ぎれば幾分楽になるか、おさまるということを信じてください。対人関係であれば、葛藤を抱える関係であることを納得してください。当分は、このような関係でもつれるでしょう。この人間関係は、敵対しないほうがよければ、工作はしないで触れずにおきましょう。
 
○矛盾と対立したとき
 
 他者との関係が良好なときは申し分ないのですが、矛盾が生じ、意見が対立することもあります。このようなことは、疎遠なひととは起きませんが、関係が近いからこそ起きるように思います。人間関係のわずらわしい一面であり、代表かも知れません。些細なことのようですが、やっかいなことでもあります。

●カウンセラーのあなたは……。
 人間関係のなかで生じた矛盾や対立が、あなたの予想をはるかに超えて展開している場合があります。第一に、現実の人間関係の矛盾や対立を遮断して、自分の世界をつくりあげていることもあります。現実をはるかに超えた苦痛のなかで暮らしているひともいます。

 矛盾や対立に対して、耐える力が必要です。この矛盾や対立と真正面から取り組めば、大変な心理的作業となります。また、問題が増えるように思います。あなたの役割としては、解決方法をアドバイスするのではなく、まるごと包み込んであげることから始めてはいかがでしょう。

◆あなたが矛盾や他者と対立の渦中でしたら……。
 矛盾や他者と対立の渦中で苦悩しているのでしたら、まずはじめに、その苦痛のなかで、七転八倒していることを自覚するところから始めてはいかがでしょう。また、矛盾や他者との対立のような摩擦は、当然起きるものと考えてはいかがでしょう。摩擦から生じる不協和音は、体験すると苦痛以外のなにものでもありませんが、この矛盾と対立し、それに伴う苦痛と取り組むことが大切であることに着目してください。人間は、他者との摩擦で磨かれたり、叩かれたりしながら「世間」で生きる存在であることを再認識してください。

 わたしは、わたしを攻撃し、批判し、非難する他者は、菩薩(*1)さまが阿修羅(*2)の姿を借りて、わたしの慢心を砕いてくれているように思います。

 矛盾や対立を遮断することができればよいのですが、こころは消化できなくて憎しみや恨みが増殖すると思います。このやっかいな全てがあなたを人間にしてくれる「種」なのかもしれません。時間がかかってもこのことをご一緒に考えましょう。

*1:ぼさつ:人々を導く者の意味でもあります。
*2:あしゅら:悪神や鬼の意味でもあります。
 
 
 
 
before home top next